科学的な炒飯を作る|油編「できるだけ酸化させない」

こんにちは。炒飯の歯車です。

今回の記事は、どうしたら料理を美味しく作れるのか、時間がかかってもいいからその理由が知りたい!という人向けです。時短やお手軽さはありませんが、どうしたら美味しい炒飯を作れるのかについて(今回は油について)、詳しく書いてみました。

これまで当ブログでは、4回にわたって科学的に根拠のある炒飯レシピを書いてきましたが、今回はその「油」編です。
炒飯に使う油は、どのように調理することで美味しくなるのかを考えていきたいと思います。
(今までに米編、卵編を書きました。今後は塩編→醤油編→調理編を予定しています。)

炒飯を作る上ので油の役割や、劣化の仕方、また劣化度合いを測る指標などを基に、科学的な理由が(一応)ある炒飯に適した油、またその調理法を書いていきます!




1.美味しい炒飯の油の定義

炒飯を作る際、ほとんどの場合油を使います。

では油を加えることにどんなメリットがあるのでしょうか?

<メリット>
・鍋に食材がくっつきにくくなる
・卵が油と乳化して美味しくなる
・舌触りが滑らかになる
・油を食材にまとわせ、食材全体をムラなく加熱しやすくなる
・油の風味(ごま油やラードを使用した場合)で美味しくなる
・米粒の表面をコーティングし、パラパラに仕上がる

油を炒飯にいれるメリットとして、以上の理由が挙げられると思います。

では次に油をいれることのデメリット考えてみましょう。

<デメリット>
・高カロリー(肥満になりやすいなど、健康への害)
・加熱により油の劣化が加速し、炒飯の風味、香り、味が悪くなる

以上のデメリットが挙げられるでしょう。

美味しい炒飯を考える上で、油を入れるメリットがあることは分かりましたが、油の劣化によって炒飯が不味くなる、といったデメリットもあります。
よって、美味しい炒飯を考えるには、”油の劣化させないように炒飯を作る”ことが重要になってきます。

そこで、油の劣化について調べてみました。

油の劣化にはいくつかの種類があるようです。

劣化の主要な原因は、
・酸化反応が進むこと
・重合反応が進むこと
・分解反応が進むこと
・黒炭が増加すること
(揚げ物を繰り返し、揚げカスが炭になったものが増えるなど)
があげられます。

またそれらを測る指標として、
ヨウ素価:油の不飽和度
カルボニル価(CV):カルボニル化合物の量
過酸化物価(PV):ヒドロペルオキシドの量
酸価(AV):遊離脂肪酸の量
チオバルビツール酸(TBA):アルデヒド類の量
といったものがあります。

さて、色々と劣化の原因、またそれを測る指標を書いてみましたが、美味しい炒飯を作るためには何を重視すべきなのでしょうか。

今回は、油をなるべく劣化させないことが美味しい炒飯を作ることとしています。
よってまずは、油を劣化させない方法から、特に重視すべきことを考えてみましょう。

先ほど書いた油の劣化の対策として、
酸化反応が進むこと
→酸素、熱、金属の影響を小さくする(酸化しにくい環境を作る)
→酸化しにくい油を使用する

重合反応が進むこと
→酸化反応による生成物を減らし、重合体を生成する元の物質を減らす(酸化反応の生成物から生成される)
→重合が起きにくい環境を作る(熱の影響など)

分解反応が進むこと(水と油の反応による加水分解と、酸化により生成された物質の分解がある)
→水分の少ない食材で調理する(加水分解を減らす)
→分解(加水分解を含む)の起きにくい油を使用する
→酸化反応による生成物を減らし、分解される元の物質を減らす
→分解が起きにくい環境を作る(熱の影響など)

黒炭が増加する
→使い回しでない、新鮮な油で調理する
→精製度の高い油で調理する
といった対策が考えられます。

これらの対策を見てみると、まず”黒炭が増加する”についての対策は、比較的単純に解決できそうです。(新鮮な、精製度の高い油を選ぶことで)
次に、”酸化が進む”、”分解が進む”、”重合体が増える”について考えてみます。
これらの関係は、分解反応の中の加水分解が比較的独立した反応であるのに対し、酸化→重合、酸化→分解という関係であり、酸化反応が劣化に対し複数影響しています。こうしてみると、酸化は劣化に対して大きな影響がありそうです。

 補足(油の劣化の最大要因は?)加水分解が、酸化・重合・分解よりも油の劣化に対して最も大きな影響を持つ可能性はあります。しかし、現時点での私の検索能力では油の劣化に対する影響度合いの大小関係が分かりませんでした。よって今回は油の劣化には酸化が大きな影響を及ぼしていると仮定し(酸化+重合+分解 > 加水分解)、書き進めていきます。

以上をまとめ、美味しい炒飯の油とは、「できるだけ酸化していない油」として考えていきます。

 補足(自動酸化と重合)
油の酸化について調べていると、「自動酸化が進んでいないと重合が発生しやすくなってしまう」といった記述を見かけます。
これについて調べてみましたが、どうやら重合反応は温度によって生成物が変わる、といったことがあるらしいです。これは、常温での酸化が進んでいない油、つまり常温での重合が進んでいない油をいきなり高温調理すると、高温で生成される重合体の割合が増えるそうです。
ただ、高温で生成される重合体の方が油の劣化を大きくしているのか、そもそも温度によってどの程度生成される重合体の割合が変わるのかが分からなかったです。(私の化学に対する知識が足りなすぎました・・・。論文読んでもチンプンカンプンでした。)。
よって、現時点の私の見解としては(分からないことをスルーした見解)、重合は酸化により生成された物質を元に反応する現象のため、酸化を抑制することで、結果的に重合も抑制できると仮定し、本記事を書いています。
(この考え方が間違っていることがわかり次第、改めて「科学的炒飯ver2|油編」を書きたいと思います)

2. 油とは。油の酸化とは。

油(油脂)とは、基本的に脂肪酸とグリセリンの化合物をのことです。

また油は、大きく分けて2種類あります。
1.飽和脂肪酸
炭素鎖(炭素同士の結合が鎖のよう連なっている状態)に2重結合、3重結合(他の物質と反応しやすい状態)が含まれていない油脂をさします。つまり反応を起こしにく油です。

2.不飽和脂肪酸
炭素鎖に2重結合、3重結合が含まれている油脂をさします。

不飽和脂肪酸も大きく2種類に分けるることができます。
2-1.一価不飽和脂肪酸
不飽和結合を1つ含む油です。
代表的な脂肪酸はオレイン酸。
多価不飽和脂肪酸よりは比較的酸化に強いです。

2-2.多価不飽和脂肪酸
不飽和結合を2つ以上含む油です。
代表的な脂肪酸はリノール酸とリノレン酸です。
酸化しやすい油です。

以上が油のざっくりした概要です。

では次に油の酸化についてですが、油の酸化とは、油から水素が離れていくこと、また酸素が油に結合することです。(酸化そのものの説明でもありますが)

(油の酸化の詳しい化学式を知りたい方は、高校の化学の教科書を開いてみるか、「油脂 酸化 化学式」等のキーワードで検索すると色々にヒットしますよ。)

油が酸化しやすい状況

つぎに油が酸化しやすい状況についてです。

まずは油を保存する際酸化しやすい条件を書いていきます。

油の保存時間は長いほど酸化が進む
新鮮な油ほどいい

加熱されると酸化が進む
涼しい所で保管したほうがいい

油が光を浴びることで酸化が進む
暗所で保存したほうがいい

クロロフィルや金属、水、すでに酸化した油などの酸化を促す物質と接触し、酸化が進む
酸化を促進させる物質に接触させない
精製度が高い油がいい(不純物が多いと酸化が進むため)
かつ空気等との接触が少ない容器

以上の条件で油を保存しておくことにより、酸化を遅らせることが出来ます。

次に調理をする際に酸化しやすい条件を書いていきます。

加熱時間が長いほど酸化が進む
炒め時間は短めがいい

加熱量(加熱温度)が高いほど酸化が進む
加熱温度は低いほうがいい

酸化促す物質と触れると酸化が進む
鉄鍋(一般的な中華鍋)は酸化を促進させるため、テフロン加工のような表面がコーティングされている鍋がいい
油と空気、鍋の表面が触れる面積の小さな鍋がいい
酸化しやすい食材(水や金属成分が多い目)、食材の量が少ないほうがいい

以上のような条件で調理すると、油の酸化を遅らせることができます。

4. 酸化しにくい油の種類

先ほどは油が酸化しやすい状況について書きましたが、今度は油そのものの酸化しやすさについて書いていきます。

(油の酸化のしやすさは様々な要素が関係し、複雑ではありますが、代表的な酸化しにくい性質について説明していきます)

2重結合が多いほど酸化しやすい
飽和脂肪酸は酸化しにくく、次に一価不飽和脂肪酸、最も酸化しやすいのが多価飽和脂肪酸

 補足(不飽和脂肪酸とヨウ素価)不飽和脂肪酸の量を計る指標として、ヨウ素価というものがあります。

ヨウ素価が低いほど酸化されにくい脂肪酸が多い油とされています。
(不乾性油(オリーブオイルなど) → 半乾性油 → 乾性油(亜麻仁油など)の順でヨウ素価が多く(酸化しやすく)なります)

ビタミンEが少ないと酸化しやすい
ビタミンEが多く含まれた油は酸化しにくい


5. まとめ

以上をまとめ、炒飯を美味しくするための酸化しにくい油を選んでみましょう。

と、その前に、炒飯を作る際の加熱温度として180℃以上での調理を想定しています。
(科学的炒飯|卵編 により180℃以上で調理すると定義しました)

よって、発煙点が180℃以上の油を下記に列挙してみます。
(発煙点とは、油が一気に煙を上げ始める温度です。煙が上がると引火の危険があります。また油の精製度が低いと発煙点も低くなるという性質があります。)

発煙点180℃以上の食用油
ラード
ココナッツオイル
マカダミアナッツオイル
菜種油
ごま油
綿実油
グレープシードオイル
アルガンオイル
アーモンドオイル
ヘーゼルナッツオイル
ピーナッツオイル
コーン油
パーム油
ひまわり油
紅花油
大豆油
オリーブオイル
アボカドオイル

一般に知られる発煙点180℃以上の食用油は大体網羅できているのではないでしょうか。

次に、多価不飽和脂肪酸が30%を超えている油を除きます
(この30%という具体的数値に根拠はありません。多価不飽和脂肪酸が多い油は酸化しやすいため、飽和脂肪酸、一価不飽和脂肪酸、多価不飽和脂肪酸の3つの脂肪酸がある中、多価不飽和脂肪酸が1/3以上含まれている油をとりあえず除いてみよう、という感じで30%としました)

多不飽和脂肪酸が30%以下の食用油
ラード
マカダミアナッツオイル
アーモンドオイル
ヘーゼルナッツオイル
パーム油
パーム核油
オリーブオイル
アボカドオイル

一気に減りました。次に一価不飽和脂肪と多価不飽和脂肪酸の合計の割合が60%以上の油を除きます。

一価不飽和脂肪と多価不飽和脂肪酸の合計が60%以下の食用油
ラード
パーム油

一騎打ちになりました。
本当にこんな絞り方でいいのか?と思われるかもしれませんが、

「フライ油の問題点」,著者:湯木悦二様,出典:油化学 / 19 巻 (1970) 8 号p. 644-654,参考:3 フライ油の脂肪酸組成と変質の関係p647-648 図1-4
https://www.jstage.jst.go.jp/article/jos1956/19/8/19_8_644/_pdf

上記の参考論文の図1~4を見て頂ければわかる通り、劣化しにくい油としてパーム油、ラード(豚脂)があげられています。(論文に合うように絞ったわけではないです!)
さて、論文を見ていて気になるのは、ヤシ油(ココナッツオイル)です。この油もかなり劣化に強そうですが、発煙点が180℃前後であるため高温で炒める調理には適していないとして除いています。(高温で炒めない炒飯であればヤシ油もはありですが)

(ただ、パーム油は高温では不安定になり、酸化、加水分解が起こりやすくなるかもしれないといった記述がみられますが・・・、他の油と比べ劣化度合いがどれほどのものなのか分からないため、今回は考えないことにします)

さて、ラード、パーム油のどちらを選ぶべきでしょうか
それぞれの特性を見てみましょう。

【ラード(100gあたり)】

飽和脂肪酸 39 g
一価不飽和脂肪酸 45 g
多価不飽和脂肪酸 11 g
ビタミンE 1 mg
ヨウ素価 55~72 g

【パーム油(100gあたり)】

飽和脂肪酸 49 g
一価不飽和脂肪酸 37 g
多価不飽和脂肪酸 9 g
ビタミンE 16 mg
ヨウ素価 53 g

参考:

1)「ラードについて」,著者:新谷勘,出典:生活衛生学会誌1964年8巻6号p.210-213,参照:p216 表3
2) ウィキペディア(最終閲覧日:2018年8月7日)
 https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%83%A9%E3%83%BC%E3%83%89
 https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%83%91%E3%83%BC%E3%83%A0%E6%B2%B9
3) Timeless Edition -自然と調和するナチュラルライフスタイルを提案-
 http://www.timeless-edition.com/archives/13263

さて、以上をどのように比較していきましょう。
ここでは単純に、それぞれの値を足したり引いたりしていくことにします。

飽和脂肪酸 1g +1
一価不飽和脂肪酸 1g 0
多価不飽和脂肪酸 1g -1
ビタミンE 1mg +1
ヨウ素価 1g -1

という重み付け(評価方法)で、それぞれ足し算してみましょう。
【ラード(100gあたり)】
39 – 11 + 1 – (55 ~ 72) = -26 ~ -43

【パーム油(100gあたり)】
49 – 9 + 16- 53 = +3

となり、パーム油がもっとも炒飯における劣化に強い油であると結論づけられました。
(特に根拠のない重み付けであり、パーム油の味などはまったく考慮していませんが・・・今回はスルーします!)

以上、科学的に美味しい→劣化しにくい→酸化しにくい炒飯のための油は、下の図のような油が最適ではないでしょうか!

長々とした記事を最後まで読んでくださりありがとうございました!!

かなり読みにくくまた根拠が薄い内容であったかと思いますが、今後も科学的に美味しい炒飯について書いていくつもりなので、時間があればぜひ読んでみて下さい!
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【これまでの科学的炒飯シリーズ:リンク】
「中華用のお玉で炒飯の仕上がりは変わるか?」科学的な炒飯を作る|プロローグ編
科学的な炒飯を作る|「ベストな米と水選び」米編①
科学的炒飯|米編②「炊飯の仕方」
科学的な炒飯を作る|卵編「ベストな卵選び」

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One thought on “科学的な炒飯を作る|油編「できるだけ酸化させない」”

  1. リクエスト
    先生はケンタッキーのチキンも科学でおいしさを計算できるのでしょうか?ぜひ読んでみたいです(^^♪

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